太宰治全集8
『太宰治全集8』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。
「パンドラの匣」は終戦直後でも希望を失わずに生きていこう、という強い意志を感じる名作ですし、他の短編・掌編も好ましい作品が多いです。
しかし、「男女同権」から急に雰囲気が変わります。
人間の暗い部分、見たくない部分が現れてきます。
これまでもちょっといじけた作品は多々ありましたが、こんな嫌な暗さはありませんでした。
これから死に向かうまでの期間に、このような作品が書かれていくのでしょうか。
目が離せなくなってきました。
<収録作品>
パンドラの匣
薄明
庭
親という二字
嘘
貨幣
やんぬる哉
十五年間
未帰還の友に
苦悩の年鑑
チャンス
雀
たずねびと
男女同権
親友交歓
トカトントン
メリイクリスマス
ヴィヨンの妻
冬の花火
春の枯葉
掏摸
『掏摸』(中村文則) <河出文庫> 読了。
「スリ」と読む。
スリはもちろん犯罪だが、その驚くべき技術に感心もし、どこか滑稽味も感じる、とても不思議な犯罪だ。
しかし、この作品は「スリ」という言葉から想起されるイメージよりもずっと暗く、ただただ重たい作品だった。
この作品を読んでいる間、ずっと食欲がなかったぐらいだ。
もし、最初の中村文則作品がこの作品だったら、その重たさに、これ以上はもう読まなかったかもしれない。
それでも、これは傑作である。
日本だけでなく、アメリカでも高く評価されていることに素直にうなずける。
ただ、木崎の描かれ方には違和感を覚えた。
「悪」の象徴としてはなんだか軽い。
簡単に人前に出るし、饒舌に過ぎる。
ひょっとしたら、彼は「悪」ではないのではないか、とも思った。
彼は、彼自身が口にした、「神」とか「運命」なのではないか。
そんな風に考えると、何だかしっくりくるような感じがする。
この作品には『王国』という続編がある。
もちろん、楽しみに読む予定。
太宰治全集6
『太宰治全集6』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。
この巻は何といっても大作「右大臣実朝」が問題になる。
太宰治が実朝に惚れこんで、吾妻鏡を基に書かれた作品。
かなり思い入れがあって力を入れて書いたんだろうな、という雰囲気は十分感じられるが、私にはその面白さが分からなかった。
実朝のことを全く知らないからだろうか。
その他の作品は太宰治らしさが存分に出ていて面白く読めた。
特に、「新釈諸国噺」はとても楽しい作品。
どこまでが西鶴のストーリーで、どこからが太宰のストーリーなのか気になる。
「竹青」は「自註。これは、創作である」と書かれているが、実際に聊斎志異の中にあるらしい。
でも、この話、最近読んだような気がする。
「黒衣隊が欠けているから採用する」とか、黒衣を掛けられると烏になるとか。
思い当たるとすれば芥川龍之介なんだが、なんだったかなあ。
<収録作品>
鉄面皮
赤心
右大臣実朝
作家の手帖
佳日
散華
雪の夜の話
東京だより
新釈諸国噺
竹青