本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

今年の総括・年越本・手元に残した本

■ 今年の総括

今年は何といっても第三の新人に出会えたのが大きかったです。
言葉としては知っていましたが、こんなに魅力的な作品だったとは!
去年は安岡章太郎の『海辺の光景』が合わなくてどうかと思ったのですが、今年読んだ小島信夫庄野潤三小沼丹はどれも面白く読むことができました。
来年は吉行淳之介にも挑戦したいと思っています。

現代の作家では、川上未映子磯崎憲一郎が良かったです。

小島信夫庄野潤三小沼丹川上未映子磯崎憲一郎は引き続きいろんな作品を読んでみたいです。

全集では、去年から読み始めた芥川龍之介を読み終え、太宰治全集を今年中に読み終えました。
どちらも全集で読むべき作家だと思いました。

今は森鴎外全集に手を付け始めています。


■ 今年から来年への年越本

『ジャン・クリストフ』(ロマン・ロラン) <岩波文庫>


■ 今年の「手元に残した本」
# 趣味の本や全集は省いています。

戦争と平和』(トルストイ) <新潮文庫>
『乳と卵』(川上未映子) <文春文庫>
『銃』(中村文則) <河出文庫>
『遮光』(中村文則) <新潮文庫>
抱擁家族』(小島信夫) <講談社文芸文庫>
『土の中の子供』(中村文則) <新潮文庫>
『終の住処』(磯崎憲一郎) <新潮文庫>
『悪意の手記』(中村文則) <新潮文庫>
『プールサイド小景・静物』(庄野潤三) <新潮文庫>
『最後の命』(中村文則) <講談社文庫>
『世界の果て』(中村文則) <文春文庫>
『村のエトランジェ』(小沼丹) <講談社文芸文庫>
『掏摸』(中村文則) <河出文庫>
『悪と仮面のルール』(中村文則) <講談社文庫>
『王国』(中村文則) <河出文庫>
『迷宮』(中村文則) <新潮文庫>

迷宮

『迷宮』(中村文則) <新潮文庫> 読了です。

相変わらず暗く陰鬱な作品ですが、とても濃密な内容です。
『掏摸』や『王国』、『悪と仮面のルール』で感じた饒舌は消えていて、そういう点ではとてもすっきりした印象を受けました。

紗奈江の告白は余計かな、とも思いながら読んでいたのですが、その後の展開には必要なものでした。
でも、他の作者ならもうちょっとうまく処理できたかも、という感じです。

P56の「遠くでサイレンの音が鳴る」という一文は『箱男』のラストを、真相に届くことのできない事件に巻き込まれるという大枠は『燃えつきた地図』を連想させ、もしかすると安部公房を意識した作品なのか、とも思いましたが、まあ、それは思い過ごしでしょう。

この作品も面白く読むことができました。
今まで読んだ中村作品の中でも上位を争いそうです。

太宰治全集9

太宰治全集9』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。

戦後の混乱期から死の直前までの作品集です。
第八巻から引き続き、人間の暗い面が多く描かれています。

やはり圧巻は「斜陽」「人間失格」だと思いますが、「桜桃」をはじめ、「おさん」「眉山」「女類」といった作品も傑作だと思います。

これで一旦、太宰治全集は終わりです。
(第十巻もありますが、別名義で書かれた小説が一つ含まれているだけなので……)
太宰治は初期のから死の直前までいろんなタイプの作品を書いており、どのタイプも非常に興味深く読むことができました。
太宰治の作品全体が、一つの作品のようです。

太宰治も全集で読むべき作家の一人だと思います。

 

【収録作品】



女神
フォスフォレッスセンス

斜陽
おさん
犯人
饗応夫人
酒の追憶
美男子と煙草
眉山
女類
渡り鳥
桜桃
家庭の幸福
人間失格
グッド・バイ

王国

『王国』(中村文則) <河出文庫> 読了です。

『掏摸』の続編です。

正直なところ、『掏摸』の続編としてこの作品でなければならなかったか、というと甚だ疑問です。
しかし、『掏摸』の内容をさらに理解するには、この作品は読む必要があるでしょう。

この作品を読んで、『掏摸』では悪の象徴のように書かれていた木崎が、なんだか魅力あるキャラクタに思えてきました。
木崎シリーズとして、また続編を書いてほしいです。

太宰治全集8

太宰治全集8』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。

パンドラの匣」は終戦直後でも希望を失わずに生きていこう、という強い意志を感じる名作ですし、他の短編・掌編も好ましい作品が多いです。

しかし、「男女同権」から急に雰囲気が変わります。
人間の暗い部分、見たくない部分が現れてきます。

これまでもちょっといじけた作品は多々ありましたが、こんな嫌な暗さはありませんでした。
これから死に向かうまでの期間に、このような作品が書かれていくのでしょうか。
目が離せなくなってきました。

<収録作品>

パンドラの匣
薄明

親という二字

貨幣
やんぬる哉
十五年間
未帰還の友に
苦悩の年鑑
チャンス

たずねびと
男女同権
親友交歓
トカトントン
メリイクリスマス
ヴィヨンの妻
冬の花火
春の枯葉

雲と暮らす。

『雲と暮らす。』(武田康男) <誠文堂新光社> 読了です。

雲に関する著作が数多くある著者の、雲への愛が深く感じられる作品です。

図鑑では典型的な雲の写真ばかりで、普段目にする雲が何という名前か判断に迷うこともありますが、この作品は普段よく見る雲の写真ばかりで、「ああ、この雲はこの名前か」というのがよく分かります。
また、その雲がどんな雲なのかも一言添えられていて、雲に関する理解が深まります。

海外の雲も紹介されていて、日本の雲と比べてどう違うかの説明もあり、非常に興味深く読めました。

図鑑ばかりでなく、こういう作品もいいものです。
雲がお好きな方にはおすすめです。

悪と仮面のルール

『悪と仮面のルール』(中村文則) <講談社文庫> 読了。

最初はなかなか物語に入っていけなくてどうなることかと思ったが、「第三部」に入ってから面白くなってきた。

中村文則は一貫したテーマを持っていて、この作品もその中で何とか答えを出そうとしているように読める。
それが成功しているかどうかはまた別の問題として。

しかし、それにしても何かと饒舌すぎるように思われる。
もうちょっと落ち着いてはどうかな。
作品自体も、第三部から入って全く問題ないように思う。
というか、第一部、第二部は書きすぎ。
第三部以降もちょくちょくそんな感じがする。