本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

「ユリシーズ」演義

『「ユリシーズ演義』(川口喬一) <研究社出版> 読了です。

二十世紀を代表する長編小説、『ユリシーズ』の解説本です。

ユリシーズ』の背景や存在意義などを解説したものではなく、『ユリシーズ』に何が書かれているのか、それがどのような効果を持っているのか、といった、純粋にテキストに沿った解説本ですので、初めて『ユリシーズ』を読む方にはいい入門書になりますし、『ユリシーズ』に親しんでいる方には今まで見えていなかったものを見せてくれる、非常に奇特な作品になっていると思います。

この作品を読むと、『ユリシーズ』がいかに緻密に作られているか、いかに謎に満ちているか、が非常によく分かります。
ユリシーズ』の楽しみがどんどん増えてくるような気がします。

文学史上の有名な謎の一つ、「雨合羽(マッキントシュ)の男とは誰か?」についても、著者のスタンスから一つの見解が示されています。
ご興味ある方はぜひ!

『雲のすべてがわかる本』(武田康男) <成美堂出版> 読了です。

今まで読んできた雲の本とちがって、雲がどのようにできているのか、雲がどのようにできていくのか、といった、ちょっと専門的なところまで踏み込んだ本です。

また、どのような雲が出てくれば天気が崩れるのか、あるいは天気の心配はないのか、正に観天望気に役立つ知識も得られるようになっています。

写真も豊富ですので、日常で見られる雲の名前を知りたいときにも活用できます。

初心者から知識をもっと得たい方まで、幅広く楽しめる本だと思います。

森鴎外全集1

森鴎外全集1』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。

いきなり文語体で、「これは読み終わるのに時間がかかるなあ」と覚悟したのですが、「半日」から口語体になり、一気に読み進めることができました。

ドイツ三部作では「舞姫」が有名だと思いますが、私は「文づかひ」が好みです。
いろいろと謎が残っているところがいいですね。

森鴎外というと何だか堅苦しいイメージがありましたが、意外に読み易く、「朝寐」や「有楽門」、「懇親会」といったようなユーモア作品も多くあります。
でも、そんな中でも何か考えさせるものがあります。

「鶏」から俄然面白くなってきました。
# 他の作品がつまらない、という訳ではありません。
# どれも佳作だと思いますが、その中でも、ということです。
これから読み進めていくのがとても楽しみです。

 

【収録作品】

舞姫
うたかたの記
文づかひ
そめちがへ
朝寐
有楽門
半日
追儺
懇親会
大発見
魔睡
ヰタ・セクスアリス

金貨
金毘羅

今年の総括・年越本・手元に残した本

■ 今年の総括

今年は何といっても第三の新人に出会えたのが大きかったです。
言葉としては知っていましたが、こんなに魅力的な作品だったとは!
去年は安岡章太郎の『海辺の光景』が合わなくてどうかと思ったのですが、今年読んだ小島信夫庄野潤三小沼丹はどれも面白く読むことができました。
来年は吉行淳之介にも挑戦したいと思っています。

現代の作家では、川上未映子磯崎憲一郎が良かったです。

小島信夫庄野潤三小沼丹川上未映子磯崎憲一郎は引き続きいろんな作品を読んでみたいです。

全集では、去年から読み始めた芥川龍之介を読み終え、太宰治全集を今年中に読み終えました。
どちらも全集で読むべき作家だと思いました。

今は森鴎外全集に手を付け始めています。


■ 今年から来年への年越本

『ジャン・クリストフ』(ロマン・ロラン) <岩波文庫>


■ 今年の「手元に残した本」
# 趣味の本や全集は省いています。

戦争と平和』(トルストイ) <新潮文庫>
『乳と卵』(川上未映子) <文春文庫>
『銃』(中村文則) <河出文庫>
『遮光』(中村文則) <新潮文庫>
抱擁家族』(小島信夫) <講談社文芸文庫>
『土の中の子供』(中村文則) <新潮文庫>
『終の住処』(磯崎憲一郎) <新潮文庫>
『悪意の手記』(中村文則) <新潮文庫>
『プールサイド小景・静物』(庄野潤三) <新潮文庫>
『最後の命』(中村文則) <講談社文庫>
『世界の果て』(中村文則) <文春文庫>
『村のエトランジェ』(小沼丹) <講談社文芸文庫>
『掏摸』(中村文則) <河出文庫>
『悪と仮面のルール』(中村文則) <講談社文庫>
『王国』(中村文則) <河出文庫>
『迷宮』(中村文則) <新潮文庫>

迷宮

『迷宮』(中村文則) <新潮文庫> 読了です。

相変わらず暗く陰鬱な作品ですが、とても濃密な内容です。
『掏摸』や『王国』、『悪と仮面のルール』で感じた饒舌は消えていて、そういう点ではとてもすっきりした印象を受けました。

紗奈江の告白は余計かな、とも思いながら読んでいたのですが、その後の展開には必要なものでした。
でも、他の作者ならもうちょっとうまく処理できたかも、という感じです。

P56の「遠くでサイレンの音が鳴る」という一文は『箱男』のラストを、真相に届くことのできない事件に巻き込まれるという大枠は『燃えつきた地図』を連想させ、もしかすると安部公房を意識した作品なのか、とも思いましたが、まあ、それは思い過ごしでしょう。

この作品も面白く読むことができました。
今まで読んだ中村作品の中でも上位を争いそうです。

太宰治全集9

太宰治全集9』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。

戦後の混乱期から死の直前までの作品集です。
第八巻から引き続き、人間の暗い面が多く描かれています。

やはり圧巻は「斜陽」「人間失格」だと思いますが、「桜桃」をはじめ、「おさん」「眉山」「女類」といった作品も傑作だと思います。

これで一旦、太宰治全集は終わりです。
(第十巻もありますが、別名義で書かれた小説が一つ含まれているだけなので……)
太宰治は初期のから死の直前までいろんなタイプの作品を書いており、どのタイプも非常に興味深く読むことができました。
太宰治の作品全体が、一つの作品のようです。

太宰治も全集で読むべき作家の一人だと思います。

 

【収録作品】



女神
フォスフォレッスセンス

斜陽
おさん
犯人
饗応夫人
酒の追憶
美男子と煙草
眉山
女類
渡り鳥
桜桃
家庭の幸福
人間失格
グッド・バイ

王国

『王国』(中村文則) <河出文庫> 読了です。

『掏摸』の続編です。

正直なところ、『掏摸』の続編としてこの作品でなければならなかったか、というと甚だ疑問です。
しかし、『掏摸』の内容をさらに理解するには、この作品は読む必要があるでしょう。

この作品を読んで、『掏摸』では悪の象徴のように書かれていた木崎が、なんだか魅力あるキャラクタに思えてきました。
木崎シリーズとして、また続編を書いてほしいです。