本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

騎士団長殺し

『騎士団長殺し』[全四冊](村上春樹)〈新潮文庫〉読了。 これまでの村上作品とはずいぶん違った印象を受けた。 何かを失った主人公がそれを取り戻そうとするストーリーがこれまでは多かったと思うのだが、この作品は、失ったものを取り戻そうとする人を…

今年の総括、手元に残した本、年越し本

今年もあと二日となりましたので、今年の総括、手元に残した本、年越し本を投稿します。 ■ 今年の総括今年読んだ本は全部で5作品でした。普段は毎年30作品以上は読んでるのですが、昨年の13作品よりも一段と少ない年になりました。 これは、昨年の年越し本…

江戸川乱歩全集第8巻 目羅博士の不思議な犯罪

『江戸川乱歩全集第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』(江戸川乱歩)〈光文社文庫〉読了。 表題作である「目羅博士の不思議な犯罪」は秀逸。こういう作品を読みたい。「地獄風景」も面白い。こういうの書きたいんだろうな、という感じがすごく伝わってくる。 そ…

金瓶梅

『金瓶梅』[全二冊](笑笑生/土屋英明訳)<徳間文庫>読了。 知る人ぞ知る、中国古典の猥本。三国志演義、西遊記、水滸伝と並ぶ中国四大奇書の一つでありながら、完全翻訳本が出版されていない。読書家の方であれば、「岩波文庫から出ているではないか」と…

今年の総括、手元に残した本、年越本

■ 今年の総括今年読了した本は16冊でした。昨年は読めなくて27冊でしたが、今年はさらに読めない年でした。荘子四冊を読んだこととかスマホデビューして時間の使い方が変わってきたりしたことが影響していると思います。 今年は山尾悠子の作品に出会えたこと…

ポトスライムの舟

『ポトスライムの舟』(津村記久子)<講談社文庫>読了。 うーん、好きなタイプの作風かもしれない。 特に大きな事件が起こるわけでもなく、日常の様子がユーモアを交えながら丁寧に描かれている。作品の世界が一度には説明されず、少しずつ描かれる日常か…

六号病棟・退屈な話

『六号病棟・退屈な話』(チェーホフ / 松下裕訳)<岩波文庫> 読了。 ずっと前にナボコフの『文学講義』を読んだとき、ナボコフが読書に求めているものが私とそっくりなことを嬉しく思った。その『文学講義』の中でとりわけチェーホフを称賛していたので、…

荘子 第三冊(雑篇)

『荘子 第四冊』(金谷治訳注)<岩波文庫> 読了。 今年のゴールデンウィークから読み始めた荘子も、ようやく読了となった。二年前の春以降、いろんなことが起こり、いろんなことを考えて試してきて、ある程度「これでいけるかもしれない」と思えるようにな…

荘子 第三冊(外篇、雑篇)

『荘子 第三冊』(金谷治訳注)<岩波文庫> 読了。 第二冊から引き続き外篇の五篇と、雑篇の三篇が収録されている。 もちろん意図したわけではなく、単に順番に適切な量を収録しているだけだろうが、第二冊と比べると比較的荘子の思想をそのまま述べたもの…

ガードナーの予期せぬ絞首刑

『ガードナーの予期せぬ絞首刑』(マーティン・ガードナー/岩沢宏和,上原隆平 監訳)<日本評論社>読了。 2017年5月の刊行で、二年あまりかけてようやく読み終えた。いろいろ忙しかったり生活スタイルが変わったりしたこともあるが、内容も盛りだくさんで難…

荘子 第二冊(外篇)

『荘子 第二冊(外篇)』読了。 内篇は、自分の小さな物差しを捨てて「それをそのままに見る」ことが主に書かれていると読んだ。その中で、儒者のいう仁義のようなものは「それをそのままに見ていない、ことさらなこと」として戒めていた。そのような表現は…

荘子 第一冊(内篇)

『荘子 第一冊(内篇)』(金谷治訳注)<岩波文庫> 読了。 荘子は大学時代に出会ってその魅力に取りつかれ、幾度となく読んできた。しかし、実際にその考え方を取り入れるとなると難しい。難しいというより、どうやっても現実の生活とは相容れないように思…

江戸川乱歩全集 第7巻

『江戸川乱歩全集 第7巻』(江戸川乱歩)<光文社文庫> 読了。 「何者」は活劇も偏執もない、いわゆる本格物。発表当時の評判はよくなかったそうだが、その動機がなかなか奮っていて興味深い。 「黄金仮面」は発表媒体の性質上、老若男女にウケる作品とい…

すべて真夜中の恋人たち

『すべて真夜中の恋人たち』(川上未映子)<講談社文庫> 読了。 まず、川上未映子がこのような人物を主人公に据えたことに驚いた。 川上未映子が書いたものはいくつか読んだことがあるし(小説は『乳と卵』だけだが)、講演会にも出たことがあるので、彼女…

『卍』(谷崎潤一郎)<中公文庫> 読了。 文豪谷崎潤一郎が書いたレズビアン小説として名高いが、そういう興味からはいってしまうとすぐに飽きてしまうだろう。そういうシーンが無いではないが、直接的な表現はほぼ無いし、あったとしても軽い内容だし、回…

ラピスラズリ

『ラピスラズリ』(山尾悠子)<ちくま文庫> 読了。 研ぎ澄まされた言葉の数々。寡作だとは聞いていたが、一つ一つの言葉をこれほど磨き上げているのであれば、寡作であるのは無理からぬ事だろう。 冒頭は次の一文から始まる。----------「画題(タイトル)…

森鴎外全集6

『森鴎外全集6』(森鴎外)<ちくま文庫>読了。 作品を読むのに、漫画化されたものや映画化されたものや、「五分で読める」ようにまとめられたものを読むだけですませて何が悪いか、という意見がある。 わたしはその答えとして「表現」というものを用意し…

今年の総括(2018年)

今年の総括と、「手元に残した本」「年越本」です。 ■ 総括今年は忙しくて気分的にまいっていた時期もあり、あまり本を読めませんでした。去年からの年越本を含めて27冊です。また、今年は「これは!」という出会いもありませんでした。逆に、『A』や『教団X…

終わらない歌

『終わらない歌』(宮下奈都)<実用之日本社文庫>読了です。『よろこびの歌』の続編です。 『よろこびの歌』では最後のシーンに向けてどんどん物語を盛り上げていく手法でしたが、『終わらない歌』では一章毎に物語が完結するように作られていました。それでも…

落下する夕方

『落下する夕方』(江國香織) <角川文庫> 読了です。 江國香織の作品を読むと、薄っすらとこわさを感じるのは私だけでしょうか。世界の薄暗い面を見てしまっている気持ちがします。 物語を語っていく主人公が、(私から見ると)世界のセカンドサイドの住民で…

森鴎外全集5

『森鴎外全集5』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。 「堺事件」は前巻の「興津弥五右衛門の遺書」「阿部一族」からの流れを汲み、事件の生々しさが伝わって読んでいて辛いものがあります。特に切腹のシーンは、フランス公使のみならず、現代の読者にとっても…

幸福論

『幸福論』(アラン / 神谷幹夫訳) <岩波文庫> 再読です。 記録を見返すと、2012年11月に初めて読んだ作品でした。 前回はとにかく新しい考え方のオンパレードで、心を震わせながら読むことができました。今回は、前回よく理解できなかったところも自分なりに…

異邦人

『異邦人』(カミュ/窪田啓作訳) <新潮文庫> 読了です。 私が高校生のときに読書感想文の課題だった作品です。その時以来の再読です。 今読んでみると、訳が本当に難しい。当時も何が起こっているのかがなかなかわからない、というところが逆に楽しかった覚え…

きりこについて

『きりこについて』(西加奈子)<角川文庫> 読了です。 ※※ネタバレを含むので気になる方は読まないでください※ ■ 表現少し北杜夫のユーモアに似ているかな、と思いました。独特の表現で、とてもおもしろいと思います。 ■ 内容不自然とも思える急な展開ですが、…

葬送

『葬送』[全四冊](平野啓一郎)<新潮文庫> 読了です。 ショパンとドラクロワという、ジャンルの異なる二人の天才芸術家の生き方を中心に、芸術論、政治情勢、民族紛争、歴史、旅行記、地理、恋愛、社交界、等等、とにかく濃密な記述に満ちた作品です。一文一…

星新一 ショートショート1001

『星新一 ショートショート1001』[全三冊] (星新一) <新潮社>読了です。 タイトルに「1001」とありますが、文庫未収録作品を含め、1024作品が収録されています。 少しずつ読んで、十数年かかりました。 これだけあると、純粋に「おもしろい!」という作品も…

江戸川乱歩全集 第5巻

『江戸川乱歩全集 第5巻』(江戸川乱歩) <光文社文庫> 読了です。 「押絵と旅する男」はとても不思議な短編です。今ならこういう発想もあるかもしれませんが、江戸川乱歩が書くとなんともいえない妖しいイメージで表現されており、今読んでも十分通用するとて…

カンバセイション・ピース

『カンバセイション・ピース』(保坂和志) <河出文庫>読了です。最近好きになった柴崎友香が影響を受けている作家、ということで読んでみました。 日常の何気ない情景が描かれている、という点で、柴崎友香や堀江敏幸の作風と通じるところがあります。このあ…

『老人と海』(ヘミングウェイ/福田恆存訳) <新潮文庫> 読了です。 実に骨太な作品。「配られたカードで勝負しろ」「塩がなければどうするか」を地で行くサンチャゴ老人には、ただただ憧れるしかありません。気持ちの弱い方にはぜひ読んでいただきたい作品で…

夕暮まで

『夕暮まで』(吉行淳之介) <新潮文庫> 読了です。 「あなたは、騙すことばかり考えているのよ、なにもかも」(P11) この一文に、ふと手が止まりました。普通の流れなら、「なにもかも」ではなく「いつも」とか「だれにでも」になると思います。しかし、ここ…