本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹) <文春文庫> 読了です。 『少年カフカ』『アフターダーク』『1Q84』と少し実験的な作品が続いていましたが、久しぶりに「失われる物語」が語られたように思います。 しかし今までの「失われる物語」…

江戸川乱歩全集第3巻 陰獣

『江戸川乱歩全集第3巻 陰獣』(江戸川乱歩) <光文社文庫> 読了です。 3巻にきて、ようやく江戸川乱歩が書きたかったものを書けているのかな、という印象を受けました。 「陰獣」や「芋虫」といったよく知られた乱歩作品のみならず、「踊る一寸法師」「人で…

森鴎外全集2

『森鴎外全集2』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。小品ですが、「電車の窓」「里芋の芽と不動の目」「桟橋」「花子」「あそび」「身上話」のような作品が私には好みです。文壇を攻撃する「杯」「ル・パルナス・アンビュラン」等の作品は、ちょっとあからさ…

雪沼とその周辺

『雪沼とその周辺』(堀江敏幸) <新潮文庫> 読了です。雪沼という山間部の町を舞台にした七つの短編集です。心を揺さぶられる作品もいくつかありますが、ほとんどは淡々と日常が語られているだけです。それにもかかわらず、登場人物には深く共感でき、その日…

1Q84

『1Q84』(村上春樹) <新潮文庫> 読了です。まず初めに、章名について。例えば、「BOOK1 前編」の第1章は目次では次のように書かれています。----------第1章(青豆)見かけにだまされないように----------さて、章名は「(青豆)見かけにだまされないように…

去年の冬、きみと別れ

『去年の冬、きみと別れ』(中村文則) <幻冬舎文庫> 読了です。作品中でもたびたび言及されている、芥川龍之介の『地獄変』にインスパイアされた作品だと思います。この作品も『地獄変』と同様、「死」と「美」をテーマに始まりますが、次第に狂気を帯びてい…

江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚

『江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚』(江戸川乱歩)<光文社文庫>読了です。新聞や雑誌の連作小説ということもあり、収録されたどの作品も全体的な構成は考えずに書き始められ、書きながら筋を作っていく、という方法で作られているそうです。「闇に蠢く…

ジャン・クリストフ

『ジャン・クリストフ』[全四冊] (ロマン・ローラン/豊島与志雄訳) <岩波文庫> 読了です。ドイツの小都市に生まれた音楽家ジャン・クリストフ・クラフトの、生誕から死去に至る文字通り一生を描いた作品です。全四冊、二千数百ページを要した長大な作品です…

「ユリシーズ」演義

『「ユリシーズ」演義』(川口喬一) <研究社出版> 読了です。二十世紀を代表する長編小説、『ユリシーズ』の解説本です。『ユリシーズ』の背景や存在意義などを解説したものではなく、『ユリシーズ』に何が書かれているのか、それがどのような効果を持ってい…

『雲のすべてがわかる本』(武田康男) <成美堂出版> 読了です。今まで読んできた雲の本とちがって、雲がどのようにできているのか、雲がどのようにできていくのか、といった、ちょっと専門的なところまで踏み込んだ本です。また、どのような雲が出てくれば天…

森鴎外全集1

『森鴎外全集1』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。いきなり文語体で、「これは読み終わるのに時間がかかるなあ」と覚悟したのですが、「半日」から口語体になり、一気に読み進めることができました。ドイツ三部作では「舞姫」が有名だと思いますが、私は「…

今年の総括・年越本・手元に残した本

■ 今年の総括今年は何といっても第三の新人に出会えたのが大きかったです。言葉としては知っていましたが、こんなに魅力的な作品だったとは!去年は安岡章太郎の『海辺の光景』が合わなくてどうかと思ったのですが、今年読んだ小島信夫、庄野潤三、小沼丹は…

迷宮

『迷宮』(中村文則) <新潮文庫> 読了です。相変わらず暗く陰鬱な作品ですが、とても濃密な内容です。『掏摸』や『王国』、『悪と仮面のルール』で感じた饒舌は消えていて、そういう点ではとてもすっきりした印象を受けました。紗奈江の告白は余計かな、とも…

太宰治全集9

『太宰治全集9』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。戦後の混乱期から死の直前までの作品集です。第八巻から引き続き、人間の暗い面が多く描かれています。やはり圧巻は「斜陽」「人間失格」だと思いますが、「桜桃」をはじめ、「おさん」「眉山」「女類」と…

王国

『王国』(中村文則) <河出文庫> 読了です。『掏摸』の続編です。正直なところ、『掏摸』の続編としてこの作品でなければならなかったか、というと甚だ疑問です。しかし、『掏摸』の内容をさらに理解するには、この作品は読む必要があるでしょう。この作品を…

太宰治全集8

『太宰治全集8』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。「パンドラの匣」は終戦直後でも希望を失わずに生きていこう、という強い意志を感じる名作ですし、他の短編・掌編も好ましい作品が多いです。しかし、「男女同権」から急に雰囲気が変わります。人間の暗い…

雲と暮らす。

『雲と暮らす。』(武田康男) <誠文堂新光社> 読了です。雲に関する著作が数多くある著者の、雲への愛が深く感じられる作品です。図鑑では典型的な雲の写真ばかりで、普段目にする雲が何という名前か判断に迷うこともありますが、この作品は普段よく見る雲の…

悪と仮面のルール

『悪と仮面のルール』(中村文則) <講談社文庫> 読了。 最初はなかなか物語に入っていけなくてどうなることかと思ったが、「第三部」に入ってから面白くなってきた。 中村文則は一貫したテーマを持っていて、この作品もその中で何とか答えを出そうとしている…

太宰治全集7

『太宰治全集7』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。 長編「津軽」「惜別」と、短編集「お伽草子」が収録されている。 「津軽」は作者の地元愛がしみじみと感じられる傑作。 初期の「富嶽百景」に匹敵する印象を受けた。 「惜別」は私と中国人留学生と先生と、そ…

掏摸

『掏摸』(中村文則) <河出文庫> 読了。「スリ」と読む。スリはもちろん犯罪だが、その驚くべき技術に感心もし、どこか滑稽味も感じる、とても不思議な犯罪だ。しかし、この作品は「スリ」という言葉から想起されるイメージよりもずっと暗く、ただただ重たい…

太宰治全集6

『太宰治全集6』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。この巻は何といっても大作「右大臣実朝」が問題になる。太宰治が実朝に惚れこんで、吾妻鏡を基に書かれた作品。かなり思い入れがあって力を入れて書いたんだろうな、という雰囲気は十分感じられるが、私にはそ…

ガードナーの新・数学娯楽

『ガードナーの新・数学娯楽』(マーティン・ガードナー/岩沢宏和,上原隆平監訳)<日本評論社> 読了。数学ゲーム全集の第三巻。なかなか出版されなくてやきもきしていたが、ちゃんと出版されて良かった。今後どれくらいの周期で出版されていくのだろうか……。以…

村のエトランジェ

『村のエトランジェ』(小沼丹) <講談社文芸文庫> 読了。初期の作品集のため、様々な文体で表されているが、ほとんどどの作品も面白く読めた。特に「紅い花」「白孔雀のいるホテル」「村のエトランジェ」は傑作。小沼丹(おぬまたん)はいわゆる第三の新人に…

太宰治全集5

『太宰治全集5』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。太宰治と言うと、何だか暗い作風を思ってしまうが、暗いというよりむしろいじけたような作品が多い。しかし、全集五巻では、「正義と微笑」のような未来への希望溢れる作品や、「黄村先生言行録」「花吹雪」「…

最後の命

『最後の命』(中村文則) <講談社文庫> 読了。少年期に秘密基地近くで親友と共有したある事件。それが成長する二人を引き離し、また引きつける。少年期の友達という、ほのかに漂う甘酸っぱさが何ともいえない感情を引き起こす。これまでの作品から引き継がれ…

『太宰治全集4』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。「新ハムレット」はシェイクスピアの「ハムレット」に題材を取った意欲作だが、やはり元が有名過ぎるし良過ぎるので、相当な違和感があった。ちょっと太宰治には荷が重かったかな。それでも、最後の事件から真…

光車よ、まわれ!

『光車よ、まわれ!』(天沢退二郎) <ブッキング> 読了。子供向けのファンタジー長編ですが、大人でも十分楽しめる。一体何が起こっているのか、何に襲われているのか、敵の目的は何なのか、光車を手に入れるとどうなるのか、龍子とは一体何者なのか、全く分…

プールサイド小景・静物

『プールサイド小景・静物』(庄野潤三) <新潮文庫> 読了。最初に収録されている「舞踏」から、いきなり魅了された。この感性はすごい!小説だが、一篇の詩を読んでいるようだ。どの作品も、日常にしっかりと足を下しながら、しかも日常に潜む密かな非日常を…

悪意の手記

『悪意の手記』(中村文則) <新潮文庫> 読了。総ページ数190の短編ですが、読むのに三日かかった。 厚くてもすぐ読める作品もあれば、薄くても時間のかかる作品もあるものだ。正直、この作品はうまく消化しきれていない。自分の中に取り込むには、かなり長い…

太宰治全集3

『太宰治全集3』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。全集を読んでいると、「走れメロス」のような作品がかなり異色であることがわかる。「畜犬談」はユーモラスな中に、ほろっとさせる作品。太宰が嫌いな方にもおすすめだ。「駈込み訴え」は緊迫感あふれる作品。…