本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

去年の冬、きみと別れ

『去年の冬、きみと別れ』(中村文則) <幻冬舎文庫> 読了です。作品中でもたびたび言及されている、芥川龍之介の『地獄変』にインスパイアされた作品だと思います。この作品も『地獄変』と同様、「死」と「美」をテーマに始まりますが、次第に狂気を帯びてい…

江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚

『江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚』(江戸川乱歩)<光文社文庫>読了です。新聞や雑誌の連作小説ということもあり、収録されたどの作品も全体的な構成は考えずに書き始められ、書きながら筋を作っていく、という方法で作られているそうです。「闇に蠢く…

ジャン・クリストフ

『ジャン・クリストフ』[全四冊] (ロマン・ローラン/豊島与志雄訳) <岩波文庫> 読了です。ドイツの小都市に生まれた音楽家ジャン・クリストフ・クラフトの、生誕から死去に至る文字通り一生を描いた作品です。全四冊、二千数百ページを要した長大な作品です…

「ユリシーズ」演義

『「ユリシーズ」演義』(川口喬一) <研究社出版> 読了です。二十世紀を代表する長編小説、『ユリシーズ』の解説本です。『ユリシーズ』の背景や存在意義などを解説したものではなく、『ユリシーズ』に何が書かれているのか、それがどのような効果を持ってい…

『雲のすべてがわかる本』(武田康男) <成美堂出版> 読了です。今まで読んできた雲の本とちがって、雲がどのようにできているのか、雲がどのようにできていくのか、といった、ちょっと専門的なところまで踏み込んだ本です。また、どのような雲が出てくれば天…

森鴎外全集1

『森鴎外全集1』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。いきなり文語体で、「これは読み終わるのに時間がかかるなあ」と覚悟したのですが、「半日」から口語体になり、一気に読み進めることができました。ドイツ三部作では「舞姫」が有名だと思いますが、私は「…

今年の総括・年越本・手元に残した本

■ 今年の総括今年は何といっても第三の新人に出会えたのが大きかったです。言葉としては知っていましたが、こんなに魅力的な作品だったとは!去年は安岡章太郎の『海辺の光景』が合わなくてどうかと思ったのですが、今年読んだ小島信夫、庄野潤三、小沼丹は…

迷宮

『迷宮』(中村文則) <新潮文庫> 読了です。相変わらず暗く陰鬱な作品ですが、とても濃密な内容です。『掏摸』や『王国』、『悪と仮面のルール』で感じた饒舌は消えていて、そういう点ではとてもすっきりした印象を受けました。紗奈江の告白は余計かな、とも…

太宰治全集9

『太宰治全集9』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。戦後の混乱期から死の直前までの作品集です。第八巻から引き続き、人間の暗い面が多く描かれています。やはり圧巻は「斜陽」「人間失格」だと思いますが、「桜桃」をはじめ、「おさん」「眉山」「女類」と…

王国

『王国』(中村文則) <河出文庫> 読了です。『掏摸』の続編です。正直なところ、『掏摸』の続編としてこの作品でなければならなかったか、というと甚だ疑問です。しかし、『掏摸』の内容をさらに理解するには、この作品は読む必要があるでしょう。この作品を…

太宰治全集8

『太宰治全集8』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。「パンドラの匣」は終戦直後でも希望を失わずに生きていこう、という強い意志を感じる名作ですし、他の短編・掌編も好ましい作品が多いです。しかし、「男女同権」から急に雰囲気が変わります。人間の暗い…

雲と暮らす。

『雲と暮らす。』(武田康男) <誠文堂新光社> 読了です。雲に関する著作が数多くある著者の、雲への愛が深く感じられる作品です。図鑑では典型的な雲の写真ばかりで、普段目にする雲が何という名前か判断に迷うこともありますが、この作品は普段よく見る雲の…

悪と仮面のルール

『悪と仮面のルール』(中村文則) <講談社文庫> 読了。 最初はなかなか物語に入っていけなくてどうなることかと思ったが、「第三部」に入ってから面白くなってきた。 中村文則は一貫したテーマを持っていて、この作品もその中で何とか答えを出そうとしている…

太宰治全集7

『太宰治全集7』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。 長編「津軽」「惜別」と、短編集「お伽草子」が収録されている。 「津軽」は作者の地元愛がしみじみと感じられる傑作。 初期の「富嶽百景」に匹敵する印象を受けた。 「惜別」は私と中国人留学生と先生と、そ…

掏摸

『掏摸』(中村文則) <河出文庫> 読了。「スリ」と読む。スリはもちろん犯罪だが、その驚くべき技術に感心もし、どこか滑稽味も感じる、とても不思議な犯罪だ。しかし、この作品は「スリ」という言葉から想起されるイメージよりもずっと暗く、ただただ重たい…

太宰治全集6

『太宰治全集6』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。この巻は何といっても大作「右大臣実朝」が問題になる。太宰治が実朝に惚れこんで、吾妻鏡を基に書かれた作品。かなり思い入れがあって力を入れて書いたんだろうな、という雰囲気は十分感じられるが、私にはそ…

ガードナーの新・数学娯楽

『ガードナーの新・数学娯楽』(マーティン・ガードナー/岩沢宏和,上原隆平監訳)<日本評論社> 読了。数学ゲーム全集の第三巻。なかなか出版されなくてやきもきしていたが、ちゃんと出版されて良かった。今後どれくらいの周期で出版されていくのだろうか……。以…

村のエトランジェ

『村のエトランジェ』(小沼丹) <講談社文芸文庫> 読了。初期の作品集のため、様々な文体で表されているが、ほとんどどの作品も面白く読めた。特に「紅い花」「白孔雀のいるホテル」「村のエトランジェ」は傑作。小沼丹(おぬまたん)はいわゆる第三の新人に…

太宰治全集5

『太宰治全集5』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。太宰治と言うと、何だか暗い作風を思ってしまうが、暗いというよりむしろいじけたような作品が多い。しかし、全集五巻では、「正義と微笑」のような未来への希望溢れる作品や、「黄村先生言行録」「花吹雪」「…

最後の命

『最後の命』(中村文則) <講談社文庫> 読了。少年期に秘密基地近くで親友と共有したある事件。それが成長する二人を引き離し、また引きつける。少年期の友達という、ほのかに漂う甘酸っぱさが何ともいえない感情を引き起こす。これまでの作品から引き継がれ…

『太宰治全集4』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。「新ハムレット」はシェイクスピアの「ハムレット」に題材を取った意欲作だが、やはり元が有名過ぎるし良過ぎるので、相当な違和感があった。ちょっと太宰治には荷が重かったかな。それでも、最後の事件から真…

光車よ、まわれ!

『光車よ、まわれ!』(天沢退二郎) <ブッキング> 読了。子供向けのファンタジー長編ですが、大人でも十分楽しめる。一体何が起こっているのか、何に襲われているのか、敵の目的は何なのか、光車を手に入れるとどうなるのか、龍子とは一体何者なのか、全く分…

プールサイド小景・静物

『プールサイド小景・静物』(庄野潤三) <新潮文庫> 読了。最初に収録されている「舞踏」から、いきなり魅了された。この感性はすごい!小説だが、一篇の詩を読んでいるようだ。どの作品も、日常にしっかりと足を下しながら、しかも日常に潜む密かな非日常を…

悪意の手記

『悪意の手記』(中村文則) <新潮文庫> 読了。総ページ数190の短編ですが、読むのに三日かかった。 厚くてもすぐ読める作品もあれば、薄くても時間のかかる作品もあるものだ。正直、この作品はうまく消化しきれていない。自分の中に取り込むには、かなり長い…

太宰治全集3

『太宰治全集3』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。全集を読んでいると、「走れメロス」のような作品がかなり異色であることがわかる。「畜犬談」はユーモラスな中に、ほろっとさせる作品。太宰が嫌いな方にもおすすめだ。「駈込み訴え」は緊迫感あふれる作品。…

終の住処

『終の住処』(磯崎憲一郎) <新潮文庫> 読了。「終の住処」と「ペナント」の二短編が収録されている。デヴィッド・リンチの映画を観たかのような読感だった。実は、「終の住処」を読んだときはうまくとらえることができず、ただただ困惑していたのだが、「ペ…

土の中の子供

『土の中の子供』(中村文則) <新潮文庫> 読了。コテンパンに打ちのめされた。ものすごい作品!この小説に比べたら、世に出回っている大半の小説はヤワい。本当に、中村文則の作品に出会えて良かったと思った。 土の中の子供 (新潮文庫) 中村 文則 新潮社 Ama…

太宰治全集2

『太宰治全集2』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。「創世記」や「喝采」は何を言いたいのかさっぱり分からなかったが、それでも言葉の選び方や配置、文章のリズムで読ませるところはすごいと思った。特に良かったのは「富嶽百景」。富士山を中心に、主人公の日…

Bolero

『Bolero』(吉田音) <筑摩書房> 読了。作者が「吉田音」になっているが、クラフト・エヴィング商會の作品。一応、中学生の娘さん、という設定になっている。SIDE AとSIDE Bにストーリーが分かれていて、SIDE Aは吉田音と円田さんと黒猫シンクの話、SIDE BはS…

残穢

『残穢』(小野不由美) <新潮文庫> 読了。内容に踏み込む作品ではないので詳しくは書けないが、起伏はあったものの、きっちり最後まで読むとなかなか興味深い作品だった。作品中でちょっと触れられていた、“「四谷怪談」のような「話」自体が怪であるものがあ…

鬼談百景

『鬼談百景』(小野不由美) <角川文庫> 読了。怪談集。まあ、よくある怪談かな、といった感じだ。怪談の最後に「実はこうだった」というオチ(怪談的な意味で)をつけないのは好感がもてる。最近はオチをつけないのが流行りなのかな。理由が分からないのはよ…

芥川龍之介全集6

『芥川龍之介全集6』(芥川龍之介) <ちくま文庫>読了。「ぼんやりした不安」を感じて自殺したのは有名な話だが、「歯車」などを読むと、結構はっきりした不安のようにも思われた。全集6の前半では、どこか「死」を幻想的でメルヘンチックなとらえ方をしてい…

抱擁家族

『抱擁家族』(小島信夫) <講談社文芸文庫> 読了。最初はなかなか入り込めなかったが、最初の話題から次の話題に移ったころから俄然面白くなり、そこからは最後まで興味深く読むことができた。淡々とした文体は、誰が何をしゃべっているのか分からなくなるく…

遮光

『遮光』(中村文則) <新潮文庫> 読了。デビュー二作目。一作目の「銃」と同じく、日常に紛れ込んだ異物によって毀されていく様子が描かれている。しかし、「銃」が次第に毀されていったのに対し、この作品では初めから毀れていた様子が伺える。いずれにしろ…

芥川龍之介全集5

『芥川龍之介全集5』(芥川龍之介) <ちくま文庫> 読了。「六の宮の姫君」は有名ですが他はあまり聞かない作品が多い。しかし、人間模様を描いた、このころの作品が私には好ましく思われた。小説は次の第六巻で終わり。これから死へ向かう時期にかけて、どの…

『銃』(中村文則) <河出文庫> 読了です。「銃」と「火」が収録されている。「銃」はとにかくものすごい! 拳銃によって毀れていく様子が一人称で語られていくその手法は、やはり中村文則でしか書けなかったんじゃないかと思わされる。読後はぞわっと鳥肌が立…

芥川龍之介全集4

『芥川龍之介全集4』(芥川龍之介) <ちくま文庫> 読了。流石にこの時期になるとかなり熟している作品が多く、味わい深く読むことができた。「杜子春」や「往生絵巻」、「藪の中」といったよく知られた作品も多いが、あまり聞かない作品の中にも、「捨児」「…

芥川龍之介全集3

『芥川龍之介全集3』<ちくま文庫> 読了。「蜜柑」を除いてはあまり有名ではない作品ばかりだが(私が無知なだけかもしれないが)、「沼地」「疑惑」「路上」(完成しなかったのが惜しい)等々、傑作も数多く収録されている。いろんなタイプの作品を描き分ける芥…

乳と卵

『乳と卵』(川上未映子)<文春文庫> 読了。ずっと女性の性が赤裸々に綴られていて、やっぱり男の私としては辛いものがあった。しかし、最後のあの爆発!これで一気に印象が変わった。最初からの流れをうまく汲み取りながら、最後のあのシーンにつなげるセンス…

芥川龍之介全集2

『芥川龍之介全集2』<ちくま文庫> 読了。第一巻ではやや「書き過ぎ」のきらいがあったが、第二巻では明示するのではなく、文脈の中で読者が自身の考えを持てるようにうまく書かれてあるように思われた。「或日の大石内蔵助」や「戯作三昧」のように、人の心…

タイニー・タイニー・ハッピー

『タイニー・タイニー・ハッピー』(飛鳥井千砂)<角川文庫> 読了。何気ない日常を作品として描くのはとても難しいものだから、作者の力ではやや足りなかったかな、と思った。とはいえ、大型ショッピングセンター「タイニー・タイニー・ハッピー」を舞台に、人…

4522敗の記憶

『4522敗の記憶』(村瀬秀信)<双葉文庫> 読了。弱い球団であることは十分認識しているが、まあ、こんなにダメダメ球団だったってことを改めて思い知らされた。DeNAに買収され、中畑監督になったときはものすごい違和感があった。でも、本当のよくやってくれた…

ガードナーの数学娯楽

『ガードナーの数学娯楽』(マーティン・ガードナー/岩沢宏和,上原隆平監訳)<日本評論社> 読了。「完全版マーティン・ガードナー数学ゲーム全集」の第二巻。相変わらず興味深い問題が沢山取り上げられていて、とても楽しく読むことができた。以下、ざっと内容…

天獄と地国

『天獄と地国』(小林泰三)<ハヤカワ文庫> 読了。短編で読んだ方はネタがばれてしまっているが、短編はあくまで「物理学小説」だった。これはきちんと「SF小説」になっていて、短編の時と比べて読みどころ満載である。短編で読んだ方にも十分楽しめる内容にな…

ツ、イ、ラ、ク

『ツ、イ、ラ、ク』(姫野カオルコ)<角川文庫> 読了。子供の成長に合わせ文体を変えてみたり、表現に工夫を凝らしたりしているところがとても好感がもてた。こういう、「この作家ならでは」と思わせるところのある作家がとても好きだ。しかし、女性視点での女…

戦争と平和

『戦争と平和』[全四冊](トルストイ/工藤精一郎訳)<新潮文庫> 読了。充実した読書時間を過ごすことができた! というのが第一感。去年から今年にかけての「年越本」に選んだのだが、読み終わったのが結局今になってしまった。ロシアの長編小説というと、何だ…

芥川龍之介全集1

『芥川龍之介全集1』<ちくま文庫> 読了。 明記されていないが、発表順に収録されているようだ。この時期の作品は、ちょっと書き過ぎかな、と思われるものが多く見受けられた。もう少し判断や解釈を読者に委ねてもいいのかな、と。とはいえ、すでに「羅生門…

abさんご・感受体のおどり

『abさんご・感受体のおどり』(黒田夏子) <文春文庫> 読了。 とにかく、個性的な作品。作者以外のだれもこのような作品を書けないだろう。どちらも長くても二ページ程度の節からなっているのだが、こんな特徴がある。・固有名詞が出てこない。 (「感受体の…

アフターダーク

『アフターダーク』(村上春樹) <講談社文庫> 読了。 会話文や書かれている内容は村上ワールドだが、文体が普段の村上春樹と全く異なっているので、「村上春樹を読みたい」と思ってこの作品を手にとった方は戸惑うかもしれない。私には映画の脚本のようなイメ…

江戸川乱歩全集第1巻 屋根裏の散歩者

『江戸川乱歩全集第1巻 屋根裏の散歩者』(江戸川乱歩) <光文社文庫> 読了。 この全集はほぼ発表順に収録されているので、ここには処女作「二銭銅貨」をはじめ、初期の短編・掌編が収録されている。江戸川乱歩の作品は、小学生のころ少年向けのものをいくつ…