本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

翔太と猫のインサイトの夏休み

『翔太と猫のインサイトの夏休み』(永井均) <ちくま文庫> 読了。

 

副題に「哲学的諸問題へのいざない」とあるように、哲学の入門書。

哲学というと、当たり前のことをわざとややこしく考えて小難しいことを言うようなイメージがあったが、この作品は全然違う。
確かに難しいことを言ってはいるが、翔太という13歳の少年との会話体で進められているので、十分理解可能だ。
しかも、「わざとややこしく」ではなく、必然性を持って考察が進められ、返って視野を広げてもらったような感じがした。
この作品を読む前と読んだ後(読んでいる最中も)とでは、世界の見え方が全く違う!

「自分(あるいは意識)とは、脳内の信号の受け渡しでしかない」と考えている方がおられるとしたら(私も薄々そのように考えていたが)、そんな方にはこの作品は強くおすすめする。
実は問題はそんなに簡単なことではないのだ。

あとがきに「個々の論点に関しては、哲学的な思考法の型を提示できると考えた限りで、できるだけさまざまな議論を提示し紹介するように努めた」とあるように、単なる入門書ではなく、フレームワークでもある。
もっと言うと、確かに入門書かもしれないが、入門することがそのまま哲学であるように思われた。

会話体で話が進められる哲学の入門書というと『ソフィーの世界』を思い浮かべる方も多いと思う。
もし『ソフィーの世界』が面白いと感じられたなら、この作品はその数倍は面白く感じるはずだ。
実のところ、あとがきや解説に書かれているように、『ソフィーの世界』は「哲学」に関して何も語っていないらしい。
ソフィーの世界』で少しでも哲学に興味を持たれたなら、ぜひこの作品を読んでみてほしい。