本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

熊の敷石

『熊の敷石』(堀江敏幸) <講談社文庫> 読了。

 

主人公の生活が細かく淡々と語られ、一体どこに向かっているのか不安で仕方がなかった。
というか、正直退屈ですらあった。
しかし、今までの積み重ねから突然ピークが現れ、深く心を揺さぶられる。
それでもまだまだ話は続き、次から次へとピークが現れる。
それまでの描写がうまく掻き混ぜられ、無駄なものが一切なく、次から次へと。
作者の構成力の素晴しさを感じさせられる作品だった。

『熊の敷石』でうまく作者の文体に慣れることができると、他の収録作品『砂売りが通る』『城址にて』にも容易に馴染むことができる。
これらには『熊の敷石』のようなピークはないが、今度は作者の表現力に驚かされ、魅了されることができるだろう。

解説で川上弘美が書いているように、
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水の上を流れてゆく一枚の葉の軌跡、を描くことが多くの小説であるとするなら、堀江敏幸の小説は、一枚の葉を流してゆく水のさまざまな姿、を描いているのかもしれない。
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これがまさに堀江敏幸の作品だと思う。

また好きな作家が増えてしまった。

 

<収録作品>

・熊の敷石

・砂売りが通る

城址にて