本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

掏摸

『掏摸』(中村文則) <河出文庫> 読了。

「スリ」と読む。

スリはもちろん犯罪だが、その驚くべき技術に感心もし、どこか滑稽味も感じる、とても不思議な犯罪だ。

しかし、この作品は「スリ」という言葉から想起されるイメージよりもずっと暗く、ただただ重たい作品だった。
この作品を読んでいる間、ずっと食欲がなかったぐらいだ。
もし、最初の中村文則作品がこの作品だったら、その重たさに、これ以上はもう読まなかったかもしれない。

それでも、これは傑作である。
日本だけでなく、アメリカでも高く評価されていることに素直にうなずける。

ただ、木崎の描かれ方には違和感を覚えた。
「悪」の象徴としてはなんだか軽い。
簡単に人前に出るし、饒舌に過ぎる。
ひょっとしたら、彼は「悪」ではないのではないか、とも思った。
彼は、彼自身が口にした、「神」とか「運命」なのではないか。
そんな風に考えると、何だかしっくりくるような感じがする。

この作品には『王国』という続編がある。
もちろん、楽しみに読む予定。