本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

森鴎外全集5

森鴎外全集5』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。

「堺事件」は前巻の「興津弥五右衛門の遺書」「阿部一族」からの流れを汲み、事件の生々しさが伝わって読んでいて辛いものがあります。
特に切腹のシーンは、フランス公使のみならず、現代の読者にとっても吐き気を催すような気味の悪さがありました。

山椒大夫」「最後の一句」は子どもの頃にも読んだことがありますが、人生経験を経て改めて読んでみると、また違った感想を持つことができました。
というか、当時は全くおもしろくなかったのですが、今読むと深い味わいがあります。
一方で「高瀬舟」はテーマが明らかすぎて、今でも少し物足りないものを感じます。

「安井夫人」「じいさんばあさん」「寒山拾得」は実に爽快。
読んでいて気持ちが朗らかになってきます。

「魚玄機」はエロティックかつミステリアスで、江戸川乱歩が好きそうなテーマです。

こうしてみると、いろんなタイプの作品をそれぞれ高い完成度で書いているんだなあと思わせられます。
実録に題材を採って自身の興味に沿った作品に仕上げるところは、澁澤龍彦を彷彿とさせるところもあります。

作者が公に顔を出さず、作中人物や描写によってその気持を伝えているところも非常に好感が持てます。
そういったベースがあるので、「安井夫人」の死に望んで急に作者が意見を述べる箇所は、作者の気持ちを押さえることができなかったという心情が察せられ、特に意味あるものに思われました。

最近読んだものと比べれば、やはり長らく読まれているだけあって、文章にリズムがあり、言葉の難しさを物ともしない心地よさがあります。
こういう文章を読みたいものです。

<収録>

大塩平八郎
堺事件
安井夫人
山椒大夫
魚玄機
じいさんばあさん
最後の一句
高瀬舟
寒山拾得
玉篋両浦嶼
日蓮聖人辻説法
仮面