本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

森鴎外全集6

森鴎外全集6』(森鴎外)<ちくま文庫>読了。

作品を読むのに、漫画化されたものや映画化されたものや、「五分で読める」ようにまとめられたものを読むだけですませて何が悪いか、という意見がある。

わたしはその答えとして「表現」というものを用意していた。
そして、この作品を読むことで、もう一つ「リズム」という答えも挙げることができると思うようになった。

とにかく森鴎外の作品はリズムが心地よい。
なんということもない内容でも、彼のリズムに乗せられてドンドン読み進めてしまう。
そしてようやく、いつの間にか疲れていることに気づく。

このリズムを感じるのは個人的な体験なのだろうか、普遍的な体験なのだろうか。
森鴎外の史伝は退屈なので覚悟を持って読んだらいい」というコメントを見かけたことがあるので、おそらく普遍的なものではないのだろう。
もしそうだとすると、万人にお勧めすることはできない。

この作品に登場するのは、名前もようやくか細く伝わっているだけの人たちだ。
しかも何か特別な事件に関わっているのであればまだいいほうで、多くは自らの心の声に従って自分のなすことをしたまでの人々である。
それでも彼らの行為と運命とが織りなす人生が、わたしには興味が深い。
もし、そのあたりに興味をもつ方がおられたなら、わたしはこの作品の一読をお勧めしたい。

全集のうちの一つだけを読むのが敷居が高いようであれば、岩波文庫から『渋江抽斎』が一冊で出ているので、それだけでも読んでみてはどうかと思う。
まだ全集をすべて読んだわけではないが、『渋江抽斎』は鴎外の史伝の粋だと思う。

全集の1を読んだときから森鴎外が好きになる予感がしていたが、この作品でそれが確固たるものになった。
彼は本当に天才だと思う。

 

【収録】
栗山大膳
津下四郎左衛門
椙原品
渋江抽斎
寿阿弥の手紙
都甲太兵衛
鈴木藤四郎
細木香以
小嶋宝素

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