本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

金瓶梅

金瓶梅』[全二冊](笑笑生/土屋英明訳)<徳間文庫>読了。

知る人ぞ知る、中国古典の猥本。
三国志演義西遊記水滸伝と並ぶ中国四大奇書の一つでありながら、完全翻訳本が出版されていない。
読書家の方であれば、「岩波文庫から出ているではないか」と思われるかもしれないが、岩波文庫版は猥褻な部分が抄訳で済まされたりカットされたりしている。
講談社から完全翻訳本が出たことがあるようだが、すでに絶版で入手困難な様子)

この土屋訳は、猥褻な部分は完全に翻訳し、その他のストーリーは大まかになぞるだけという非常に変わった訳本である。

あれだけ成熟した文化を持っていれば、当然性の成熟も見るべきものがあるだろう、と思っていたが、「このころ(西暦1100年ごろ)からこういう行為があるんだ」という驚き程度で、中国文化ならではと思えるような驚きはなかった。
猥褻だけを求めるのであれば、現代の文学のほうが成熟している。

しかし、猥褻はいつの時代も虐げられ隠されてきたことを思えば、これでもなんとか現代まで残ってきたと言えるのかもしれない。
大衆に守られ受け入れられるギリギリの線だったのだろうか、と考えてみたりもする。

しかも読んでみると、性的なシーンよりもその他のストーリーの方に大きく興味が惹かれた。

数多ある登場人物の中で、あるものは無念の内に殺され、あるものは幸せを掴む。目の前の幸運をみすみす逃してしまうものもいれば、目立たないうちにあれよあれよと栄達するものもいる。
私はそういった人間模様が好きなのかもしれない。

性的なシーンは大したことない、と書いたが、それでも興味深い部分はいろいろある。
この作品自体が絶版状態だが、ご興味あればぜひ。