本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

すべて真夜中の恋人たち

『すべて真夜中の恋人たち』(川上未映子)<講談社文庫> 読了。

まず、川上未映子がこのような人物を主人公に据えたことに驚いた。

川上未映子が書いたものはいくつか読んだことがあるし(小説は『乳と卵』だけだが)、講演会にも出たことがあるので、彼女が主人公するならむしろ石川聖のような人物だろうと、まず思った。
この作品を読んでいても、主人公の生き方にただただ「それじゃダメだろう」という気持ちしか持てず、もし最後まで読み通さないタイプの読者だったら、途中で諦めてしまったかもしれない。

正直なところ、最後まで読んでみて、主人公に対する気持ちはさほど読み始め、読んでいる途中とも変わらなかったが、物語全体の構成として、こういうものもあるのかな、と思うようになった。

入江冬子と石川聖はまったく生き方も考え方も正反対だ。
つまり、川上未映子があえて入江冬子を主人公に選んだのには、意味があるのではないだろうか。

私は、川上未映子を構成する要素として、比率の違いはあるものの、二つの面を入江冬子と石川聖に代表させたのではないか、と思った。

ある程度完成(完璧ではない)された人格である石川聖と、固く閉ざされたまま成長を拒むかのような入江冬子。
その状態で生きていくことももちろん可能だが、川上未映子は入江冬子の人格をなんとかしたかったのではないだろうか。
そして、入江冬子の殻を破ることで、石川聖を、また、二つの人格が融合した作者自身をも、成長させたかったのではないだろうか。
そのように読んでみると、最後のいくつかの場面もより意味を持ったもののようにとらえられる。

登場人物は極めて少ないが、そのように見た場合に、二つの人格それぞれに対して、登場人物たちがどのように関わるのか、どのように言及しているのかを見ていくのも興味深いだろう。

村上春樹の主人公が女性を導き手とするように、ここでは、男性が導き手となっているのも興味深い。

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