本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

ポトスライムの舟

『ポトスライムの舟』(津村記久子)<講談社文庫>
読了。

うーん、好きなタイプの作風かもしれない。

特に大きな事件が起こるわけでもなく、日常の様子がユーモアを交えながら丁寧に描かれている。
作品の世界が一度には説明されず、少しずつ描かれる日常から読者が少しずつ組み立てなければならない。
すべてを説明しないから、それでもどこかに謎が残されたままになる……。

うーん、いや、良いです!

仕事や職場を舞台にした作品と聞いていたので読むつもりはなかったが、あまりに評判がよかったため、ほとんどイヤイヤ購入してイヤイヤ読み始めたぐらいなのだが、読んでよかった!

さて、気になるのは主人公の人称。
こういう作品を読むと、「“わたし”でええやん」と思ってしまうことが多い。
この作品もそのように思いながら読み進めるうちに、そういう思いを忘れてしまった。
読み終わってふと思い出して、改めて「“わたし”でいいのか?」と考えると、どうも“わたし”ではしっくりこない。

解説で安藤礼二がそこをうまく説明していて、「実は外面から見た客観的な描写なのである」がために、“わたし”だとしっくりこないのだ。
そういうところはほとんど経験したことがない表現だった。

解説については、後半で津村記久子のその他の作品の解説も始まってしまうので、まだあまり読んでいない方は、前半だけ読むことをおすすめしたい。

併録の「十二月の窓辺」は重い内容だった。
さらにテーマ性のようなものや伏線回収のようなものもあり、私にとってはあまり好みの作品ではなかった。
最初にこの中編を読んでいたら、もう津村記久子は読まなかったかもしれない。

しかし、このテーマ性は実は今私が実生活で感じているところでもあり、そこは勉強になった。

なにはともあれ、今後も読んでいきたい作家がまた増えた。