本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚

江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚』(江戸川乱歩)<光文社文庫>
読了です。

新聞や雑誌の連作小説ということもあり、収録されたどの作品も全体的な構成は考えずに書き始められ、書きながら筋を作っていく、という方法で作られているそうです。

「闇に蠢く」はなかなか筋が決まらず苦心したとみえ、本当に支離滅裂な作品に仕上がってしまいましたが、「湖畔亭事件」「パノラマ島奇譚」「一寸法師」は全体も整っていますし、ストーリーも面白く、全体を考えずに書かれているとは思えない完成度だと思いました。

解説で新保博久
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乱歩作品につきまとうアブノーマルもグロテスク趣味のイメージも装飾であって、本質ではない。
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と書いていますが、そうなんでしょうか。
私は「アブノーマル」や「グロテスク」が本質で、ミステリ要素が装飾だと思ってました。 :-)

「湖畔亭事件」の語り手の趣味、「パノラマ島奇譚」の千代子と廣介との花火のシーンおよびラストの花火のシーン、「一寸法師」の冒頭の浅草のシーンや夜更けの人形師宅での解き明かし、そういうところに江戸川乱歩の面白さがあるんじゃないのかな、と思います。

明智小五郎が「イヤな男」というのは同意です。
本当にクセのある探偵ですよね。 :-)

 

<収録>

闇に蠢く
湖畔亭事件
空気男
パノラマ島綺譚
一寸法師

ジャン・クリストフ

『ジャン・クリストフ』[全四冊] (ロマン・ローラン/豊島与志雄訳) <岩波文庫> 読了です。

ドイツの小都市に生まれた音楽家ジャン・クリストフ・クラフトの、生誕から死去に至る文字通り一生を描いた作品です。
全四冊、二千数百ページを要した長大な作品です。

クリストフの成長譚、と括ってしまうにはあまりに濃密な内容でした。
私は「読書は趣味でしかない」とこれまで考えてきましたが、この作品を読むと、単なる趣味では済まされないような気がしてきます。
この作品を読み切るためには、相当な読書力を求められるでしょう。(手前味噌ですみません)
正直なところ、あの『失われた時を求めて』よりも手強かったです。
「我こそは!」と思われる方がおられたら、ぜひ挑戦していただきたいです。

去年の十二月半ば、2016年から2017年への年越本にこの作品を選んで、読み終えるのに三か月半かかりました。
ずっとクリストフと付き合っていると、彼との別れが寂しく感じられます。
自分をクリストフに投影していましたし、クリストフからもいろんな影響を受けました。
特に、クリストフが少年期に叔父からかけられた言葉、老年期で至った境地、は、私の人生の指針となりそうです。

あと、これは蛇足ですが、BLの要素も含んでいます。
そういうのがお好きであれば、第一冊 P226から始まるオットーとの出会い、第三冊 P145から始まるオリヴィエとの交流を、つまんでみても面白いかな、と思います。 :-)

キャスト シフト

キャスト シフト(CAST SHIFT)

小谷善行とKirill Grebnevのデザイン。

 

四枚の板の切れ込みを組み合わせて作られている。

一見、ポジションをうまく合わせればすっと外れそうだが(キャスト ラトルのように)、そううまくはいかない。

この形からは想像できなかった外れ方に、驚きを覚えた。

 

「ユリシーズ」演義

『「ユリシーズ演義』(川口喬一) <研究社出版> 読了です。

二十世紀を代表する長編小説、『ユリシーズ』の解説本です。

ユリシーズ』の背景や存在意義などを解説したものではなく、『ユリシーズ』に何が書かれているのか、それがどのような効果を持っているのか、といった、純粋にテキストに沿った解説本ですので、初めて『ユリシーズ』を読む方にはいい入門書になりますし、『ユリシーズ』に親しんでいる方には今まで見えていなかったものを見せてくれる、非常に奇特な作品になっていると思います。

この作品を読むと、『ユリシーズ』がいかに緻密に作られているか、いかに謎に満ちているか、が非常によく分かります。
ユリシーズ』の楽しみがどんどん増えてくるような気がします。

文学史上の有名な謎の一つ、「雨合羽(マッキントシュ)の男とは誰か?」についても、著者のスタンスから一つの見解が示されています。
ご興味ある方はぜひ!

『雲のすべてがわかる本』(武田康男) <成美堂出版> 読了です。

今まで読んできた雲の本とちがって、雲がどのようにできているのか、雲がどのようにできていくのか、といった、ちょっと専門的なところまで踏み込んだ本です。

また、どのような雲が出てくれば天気が崩れるのか、あるいは天気の心配はないのか、正に観天望気に役立つ知識も得られるようになっています。

写真も豊富ですので、日常で見られる雲の名前を知りたいときにも活用できます。

初心者から知識をもっと得たい方まで、幅広く楽しめる本だと思います。

森鴎外全集1

森鴎外全集1』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。

いきなり文語体で、「これは読み終わるのに時間がかかるなあ」と覚悟したのですが、「半日」から口語体になり、一気に読み進めることができました。

ドイツ三部作では「舞姫」が有名だと思いますが、私は「文づかひ」が好みです。
いろいろと謎が残っているところがいいですね。

森鴎外というと何だか堅苦しいイメージがありましたが、意外に読み易く、「朝寐」や「有楽門」、「懇親会」といったようなユーモア作品も多くあります。
でも、そんな中でも何か考えさせるものがあります。

「鶏」から俄然面白くなってきました。
# 他の作品がつまらない、という訳ではありません。
# どれも佳作だと思いますが、その中でも、ということです。
これから読み進めていくのがとても楽しみです。

 

【収録作品】

舞姫
うたかたの記
文づかひ
そめちがへ
朝寐
有楽門
半日
追儺
懇親会
大発見
魔睡
ヰタ・セクスアリス

金貨
金毘羅

今年の総括・年越本・手元に残した本

■ 今年の総括

今年は何といっても第三の新人に出会えたのが大きかったです。
言葉としては知っていましたが、こんなに魅力的な作品だったとは!
去年は安岡章太郎の『海辺の光景』が合わなくてどうかと思ったのですが、今年読んだ小島信夫庄野潤三小沼丹はどれも面白く読むことができました。
来年は吉行淳之介にも挑戦したいと思っています。

現代の作家では、川上未映子磯崎憲一郎が良かったです。

小島信夫庄野潤三小沼丹川上未映子磯崎憲一郎は引き続きいろんな作品を読んでみたいです。

全集では、去年から読み始めた芥川龍之介を読み終え、太宰治全集を今年中に読み終えました。
どちらも全集で読むべき作家だと思いました。

今は森鴎外全集に手を付け始めています。


■ 今年から来年への年越本

『ジャン・クリストフ』(ロマン・ロラン) <岩波文庫>


■ 今年の「手元に残した本」
# 趣味の本や全集は省いています。

戦争と平和』(トルストイ) <新潮文庫>
『乳と卵』(川上未映子) <文春文庫>
『銃』(中村文則) <河出文庫>
『遮光』(中村文則) <新潮文庫>
抱擁家族』(小島信夫) <講談社文芸文庫>
『土の中の子供』(中村文則) <新潮文庫>
『終の住処』(磯崎憲一郎) <新潮文庫>
『悪意の手記』(中村文則) <新潮文庫>
『プールサイド小景・静物』(庄野潤三) <新潮文庫>
『最後の命』(中村文則) <講談社文庫>
『世界の果て』(中村文則) <文春文庫>
『村のエトランジェ』(小沼丹) <講談社文芸文庫>
『掏摸』(中村文則) <河出文庫>
『悪と仮面のルール』(中村文則) <講談社文庫>
『王国』(中村文則) <河出文庫>
『迷宮』(中村文則) <新潮文庫>