迷宮
『迷宮』(中村文則) <新潮文庫> 読了です。
相変わらず暗く陰鬱な作品ですが、とても濃密な内容です。
『掏摸』や『王国』、『悪と仮面のルール』で感じた饒舌は消えていて、そういう点ではとてもすっきりした印象を受けました。
紗奈江の告白は余計かな、とも思いながら読んでいたのですが、その後の展開には必要なものでした。
でも、他の作者ならもうちょっとうまく処理できたかも、という感じです。
P56の「遠くでサイレンの音が鳴る」という一文は『箱男』のラストを、真相に届くことのできない事件に巻き込まれるという大枠は『燃えつきた地図』を連想させ、もしかすると安部公房を意識した作品なのか、とも思いましたが、まあ、それは思い過ごしでしょう。
この作品も面白く読むことができました。
今まで読んだ中村作品の中でも上位を争いそうです。
太宰治全集9
『太宰治全集9』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。
戦後の混乱期から死の直前までの作品集です。
第八巻から引き続き、人間の暗い面が多く描かれています。
やはり圧巻は「斜陽」「人間失格」だと思いますが、「桜桃」をはじめ、「おさん」「眉山」「女類」といった作品も傑作だと思います。
これで一旦、太宰治全集は終わりです。
(第十巻もありますが、別名義で書かれた小説が一つ含まれているだけなので……)
太宰治は初期のから死の直前までいろんなタイプの作品を書いており、どのタイプも非常に興味深く読むことができました。
太宰治の作品全体が、一つの作品のようです。
太宰治も全集で読むべき作家の一人だと思います。
【収録作品】
母
父
女神
フォスフォレッスセンス
朝
斜陽
おさん
犯人
饗応夫人
酒の追憶
美男子と煙草
眉山
女類
渡り鳥
桜桃
家庭の幸福
人間失格
グッド・バイ
太宰治全集8
『太宰治全集8』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。
「パンドラの匣」は終戦直後でも希望を失わずに生きていこう、という強い意志を感じる名作ですし、他の短編・掌編も好ましい作品が多いです。
しかし、「男女同権」から急に雰囲気が変わります。
人間の暗い部分、見たくない部分が現れてきます。
これまでもちょっといじけた作品は多々ありましたが、こんな嫌な暗さはありませんでした。
これから死に向かうまでの期間に、このような作品が書かれていくのでしょうか。
目が離せなくなってきました。
<収録作品>
パンドラの匣
薄明
庭
親という二字
嘘
貨幣
やんぬる哉
十五年間
未帰還の友に
苦悩の年鑑
チャンス
雀
たずねびと
男女同権
親友交歓
トカトントン
メリイクリスマス
ヴィヨンの妻
冬の花火
春の枯葉