本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

ファウスト

ファウスト』[全二冊](ゲーテ)<新潮文庫>
読了です。


※内容に触れますので、嫌な方は読まないでください。

思いの外すらすらと読めました。
第一部は波乱万丈・お祭り騒ぎが盛大で、とにかく読んでいて楽しいです。
学生をからかったり、魔女の厨の異空間を経験したり、恋をしたり、魔女たちの祭りに参加したり。

しかし、第一部が終わる間際のグレートヒェンの悲劇には胸が痛みます。
もちろん、それまでにも悲劇の匂いはしているのですが、もう現実を見ることができず、狂気の中で暮らしているグレートヒェンの描写には、本当に気が滅入る思いましました。

第二部に入って、気を取り直したファウスト一行が皇帝をからかう場面はまた楽しい。
「母の国」の描写がなく、すぐ戻ってきたのは残念でしたが、いろんな刺激を受けることができました。

ギリシアに移ってからは、正直あまり興味が惹かれなくなりました。
ここで読むスピードもぐっと落ちてしまいました……。
美女の描写は難しいですね。

そして再び皇帝出現。
あの享楽から一転して、国が内乱状態にあるという事実がわかり、やっぱりここでも気が滅入ります。
ファウスト一行の魔力で皇帝側が勝つものの、皇帝の感じた気味悪さや戦勝後の重臣への過重な約束など、未来の暗さが暗示されているようにも思います。

戦勝の褒美としてファウストが最後に臨んだものの崇高さは素晴らしいのですが、しかしその崇高さも悪魔メフィストーフェレスとの契約の中で成し遂げられているがために、いつも暗さを含んでいます。
結局、ファウストの人生は、メフィストーフェレスと契約してからは暗くなる一方だったのではないでしょうか。

ファウストの最後の救いは、ちょっとアッケラカンとし過ぎだという印象です。
なかなか神の救いを劇的に書くのは難しいと思いますが、これまでのストーリーの最後としては物足りない思いがします。


タイトルは「ファウスト」ですが、ファウストマクガフィン的な扱いで、やはり全体的にはメフィストーフェレスの物語のような気がします。
そういう意味では、ラストもメフィストーフェレスで終わらせてみたかったですね。

名作を簡単に読めるよう、要約した本なんかが少し前に流行りましたが、このような作品を読むと、要約なんかで「名作」のことが分かるはずはない、と思います。
一言一言の表現の面白さ、景色の重厚な描写、登場人物の軽さや重さ、雰囲気の明るさ暗さなんかが要約で分かりますでしょうか。
むしろ、そういうところを楽しむための読書なんじゃないか、と思います。

最後、蛇足ですが。
酒場でからかわれている大学生について、訳注で「新入生」とか「年配の学生」とか書かれていました。
これって、どこで分かるんでしょう?
ファウスト伝説では有名な登場人物なのかな?