夕暮まで
「あなたは、騙すことばかり考えているのよ、なにもかも」(P11)
この一文に、ふと手が止まりました。
普通の流れなら、「なにもかも」ではなく「いつも」とか「だれにでも」になると思います。
しかし、ここで作者が選んだ言葉は「なにもかも」。
なぜここが「なにもかも」なのか、その意味を考えさせられます。
それまではあまりうまい文章とも思えず、「合わないかな」と思いながら読んでいたのですが、この一文を読んで、作者が込める感情をうまく汲み取れていなかったことに気づきました。
作者が選ぶ言葉に注意しながら読むと、あちらこちらで引っかかりを覚えます。
そのたびに、なぜ作者はその言葉、その一文を選んだのか、いろいろ思いを馳せながら読むことができ、非常に楽しい読書体験でした。
しかし、あまりに性的な情景が多い。
すべてを性の中で表現し、性として問題提起し、結果としてまた性が選ばれる、そんな感じがします。
一つのスタイルとしてはそういう表現方法もあるかと思いますが、成功しているのか、と問われると、私には疑問に思いました。
非常におもしろい作家だとは思いますが、たぶん、もう読まないと思います。