本とパズルのブログ

人生は一冊の本である。人生は一つのパズルである。

森鴎外全集4

『森鴎外全集4』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。 正直、全集3までは鴎外のエリート臭が鼻につく作品も多くありましたが、全集4では肩の力も抜けたようで、どれも傑作といっていいと思います。 人の心情が細やかに表現されており、どの文章を読んでも心…

女のいない男たち

『女のいない男たち』(村上春樹) <文春文庫> 読了です。短編集です。 私の好みでは、「木野」が秀逸だと思いました。なんとも不気味な雰囲気がずっと揺るがず漂っていて、村上ワールドが強からず弱からず出せていたと思います。タイトルも良いです。 短編集…

江戸川乱歩全集第4巻 孤島の鬼

『江戸川乱歩全集第4巻 孤島の鬼』(江戸川乱歩) <光文社文庫>読了です。 「孤島の鬼」と「猟奇の果」が収録されています。 「孤島の鬼」は、最初はロマンチックな感じの密室殺人事件でしたが、だんだん様相を変えてきます。しかし、「闇に蠢く」のような冗…

ファウスト

『ファウスト』[全二冊](ゲーテ)<新潮文庫>読了です。 ※※内容に触れますので、嫌な方は読まないでください。※ 思いの外すらすらと読めました。第一部は波乱万丈・お祭り騒ぎが盛大で、とにかく読んでいて楽しいです。学生をからかったり、魔女の厨の異空間を…

今年の総括

今年の総括と、「手元に残した本」「年越し本」です。 今年はとにかく、『ジャン・クリストフ』を読んだのがとても大きかったです。「結局、読書なんて趣味だから」とこれまで思っていましたが、趣味でない読書、というものが存在することを知りました。この…

『春の庭』(柴崎友香) <文春文庫> 読了です。 現れてくる一文をじっくり味わいたくなる。しかし、どれだけ味わっても味がなくなることはなく、キリがないので渋々次の一文に移る。そして、次の一文もまたじっくり味わいたくなる。 そんな、一文一文が積み重…

森鴎外全集3

『森鴎外全集3』(森鴎外)<ちくま文庫> 読了です。 最近ますます読むのが遅くなり、読むのに一か月近くかかりました。それでも、一文一文を噛み締めて読むよろこび、作者がどう思ってこの一文を書いたのかを自分なりに辿るよろこびが分かってきたような感じ…

『よろこびの歌』(宮下奈都) <実業之日本社文庫> 読了です。 久しぶりに胸を高ぶらせながら読める作品に出会いました。読み終わって、ちょっと興奮しています。 一時間ほどかけてこの感想を書いていますが、この作品の内容を思い出しながら、指と胸が震えて…

『デミアン』(ヘッセ/高橋健二訳) <新潮文庫> 読了です。 確か最初は高校生のとき、家にあった世界文学全集のようなもので読んだのだと思います。とても感激し、その後大学に入っても(今度はこの文庫で)読み、変わらない感激を覚えました。 それからずいぶ…

日蝕・一月物語

『日蝕・一月物語』(平野啓一郎)<新潮文庫> 読了です。 「日蝕」は芥川賞受賞後すぐに読んだことがあります。概ねストーリーや文体は覚えていましたが、やはり年月が経つと、興味ある部分も変化していました。当時は一風変わった文体やストーリーを面白く読…

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』(村上春樹) <文春文庫> 読了です。 『少年カフカ』『アフターダーク』『1Q84』と少し実験的な作品が続いていましたが、久しぶりに「失われる物語」が語られたように思います。 しかし今までの「失われる物語」…

江戸川乱歩全集第3巻 陰獣

『江戸川乱歩全集第3巻 陰獣』(江戸川乱歩) <光文社文庫> 読了です。 3巻にきて、ようやく江戸川乱歩が書きたかったものを書けているのかな、という印象を受けました。 「陰獣」や「芋虫」といったよく知られた乱歩作品のみならず、「踊る一寸法師」「人で…

森鴎外全集2

『森鴎外全集2』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。小品ですが、「電車の窓」「里芋の芽と不動の目」「桟橋」「花子」「あそび」「身上話」のような作品が私には好みです。文壇を攻撃する「杯」「ル・パルナス・アンビュラン」等の作品は、ちょっとあからさ…

雪沼とその周辺

『雪沼とその周辺』(堀江敏幸) <新潮文庫> 読了です。雪沼という山間部の町を舞台にした七つの短編集です。心を揺さぶられる作品もいくつかありますが、ほとんどは淡々と日常が語られているだけです。それにもかかわらず、登場人物には深く共感でき、その日…

1Q84

『1Q84』(村上春樹) <新潮文庫> 読了です。まず初めに、章名について。例えば、「BOOK1 前編」の第1章は目次では次のように書かれています。----------第1章(青豆)見かけにだまされないように----------さて、章名は「(青豆)見かけにだまされないように…

去年の冬、きみと別れ

『去年の冬、きみと別れ』(中村文則) <幻冬舎文庫> 読了です。作品中でもたびたび言及されている、芥川龍之介の『地獄変』にインスパイアされた作品だと思います。この作品も『地獄変』と同様、「死」と「美」をテーマに始まりますが、次第に狂気を帯びてい…

江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚

『江戸川乱歩全集第2巻 パノラマ島奇譚』(江戸川乱歩)<光文社文庫>読了です。新聞や雑誌の連作小説ということもあり、収録されたどの作品も全体的な構成は考えずに書き始められ、書きながら筋を作っていく、という方法で作られているそうです。「闇に蠢く…

ジャン・クリストフ

『ジャン・クリストフ』[全四冊] (ロマン・ローラン/豊島与志雄訳) <岩波文庫> 読了です。ドイツの小都市に生まれた音楽家ジャン・クリストフ・クラフトの、生誕から死去に至る文字通り一生を描いた作品です。全四冊、二千数百ページを要した長大な作品です…

「ユリシーズ」演義

『「ユリシーズ」演義』(川口喬一) <研究社出版> 読了です。二十世紀を代表する長編小説、『ユリシーズ』の解説本です。『ユリシーズ』の背景や存在意義などを解説したものではなく、『ユリシーズ』に何が書かれているのか、それがどのような効果を持ってい…

『雲のすべてがわかる本』(武田康男) <成美堂出版> 読了です。今まで読んできた雲の本とちがって、雲がどのようにできているのか、雲がどのようにできていくのか、といった、ちょっと専門的なところまで踏み込んだ本です。また、どのような雲が出てくれば天…

森鴎外全集1

『森鴎外全集1』(森鴎外) <ちくま文庫> 読了です。いきなり文語体で、「これは読み終わるのに時間がかかるなあ」と覚悟したのですが、「半日」から口語体になり、一気に読み進めることができました。ドイツ三部作では「舞姫」が有名だと思いますが、私は「…

今年の総括・年越本・手元に残した本

■ 今年の総括今年は何といっても第三の新人に出会えたのが大きかったです。言葉としては知っていましたが、こんなに魅力的な作品だったとは!去年は安岡章太郎の『海辺の光景』が合わなくてどうかと思ったのですが、今年読んだ小島信夫、庄野潤三、小沼丹は…

迷宮

『迷宮』(中村文則) <新潮文庫> 読了です。相変わらず暗く陰鬱な作品ですが、とても濃密な内容です。『掏摸』や『王国』、『悪と仮面のルール』で感じた饒舌は消えていて、そういう点ではとてもすっきりした印象を受けました。紗奈江の告白は余計かな、とも…

太宰治全集9

『太宰治全集9』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。戦後の混乱期から死の直前までの作品集です。第八巻から引き続き、人間の暗い面が多く描かれています。やはり圧巻は「斜陽」「人間失格」だと思いますが、「桜桃」をはじめ、「おさん」「眉山」「女類」と…

王国

『王国』(中村文則) <河出文庫> 読了です。『掏摸』の続編です。正直なところ、『掏摸』の続編としてこの作品でなければならなかったか、というと甚だ疑問です。しかし、『掏摸』の内容をさらに理解するには、この作品は読む必要があるでしょう。この作品を…

太宰治全集8

『太宰治全集8』(太宰治) <ちくま文庫> 読了です。「パンドラの匣」は終戦直後でも希望を失わずに生きていこう、という強い意志を感じる名作ですし、他の短編・掌編も好ましい作品が多いです。しかし、「男女同権」から急に雰囲気が変わります。人間の暗い…

雲と暮らす。

『雲と暮らす。』(武田康男) <誠文堂新光社> 読了です。雲に関する著作が数多くある著者の、雲への愛が深く感じられる作品です。図鑑では典型的な雲の写真ばかりで、普段目にする雲が何という名前か判断に迷うこともありますが、この作品は普段よく見る雲の…

悪と仮面のルール

『悪と仮面のルール』(中村文則) <講談社文庫> 読了。 最初はなかなか物語に入っていけなくてどうなることかと思ったが、「第三部」に入ってから面白くなってきた。 中村文則は一貫したテーマを持っていて、この作品もその中で何とか答えを出そうとしている…

太宰治全集7

『太宰治全集7』(太宰治) <ちくま文庫> 読了。 長編「津軽」「惜別」と、短編集「お伽草子」が収録されている。 「津軽」は作者の地元愛がしみじみと感じられる傑作。 初期の「富嶽百景」に匹敵する印象を受けた。 「惜別」は私と中国人留学生と先生と、そ…

掏摸

『掏摸』(中村文則) <河出文庫> 読了。「スリ」と読む。スリはもちろん犯罪だが、その驚くべき技術に感心もし、どこか滑稽味も感じる、とても不思議な犯罪だ。しかし、この作品は「スリ」という言葉から想起されるイメージよりもずっと暗く、ただただ重たい…